大阪地方裁判所堺支部 昭和41年(ヒ)6号 決定 1968年9月26日
申請人 前田勝己 外四名
被申請人 前田製菓株式会社
主文
一 別紙目録記載の株式の買取価格を一株(額面金五、〇〇〇円)につき、金八、九四〇円と定める。
二 申請費用は、被申請会社の負担とする。
理由
申請人らは、「別紙目録記載の株式の買取価格(昭和四一年八月一二日現在)を、一株(額面金五、〇〇〇円)につき金一万六、二八〇円と定める。」との決定を求めるむね申し立てた。その理由の要旨は、つぎのとおりである。
「被申請会社は、堺市に本店を有し、菓子食糧品(特にクラツカー)の製造加工販売およびその付帯事業を営む資本金一億八、二〇〇万円、発行済株式総数三万六、四〇〇株(一株の額面金五、〇〇〇円、すべて普通株)の会社であり、申請人らは、別紙目録記載のとおり、被申請会社の株式を所有する株主である。
ところで、被申請会社においては、その定款を変更して、株式の譲渡につき、取締役会の承認を要するむねの定めを設けることとし、これが決議のための株主総会を昭和四一年八月四日午後五時と指定し、そのむねを申請人らに通知した。申請人らは、右定款変更に反対であつたので、同年八月一日被申請会社到達の書面で、定款変更に反対するむねの意思を通知し、かつ申請人前田維久子が同月四日の株主総会に他の申請人らの代理人の資格をも兼ねて出席し、右定款変更に反対の意思を表示したが、多数決により、定款変更の議案が可決された。そこで、申請人らは、同月一二日被申請会社到達の書面で、申請人ら所有の株式を適正価格で買い取るべきむねの意思表示をし、被申請会社と買取価格につき協議したが、決議の日から六〇日以内に協議が調わなかつた。よつて、申請人らは、商法第三四九条、第二四五条の三の規定に基き、本件株式の買取価格の決定を求めるものであるが、その価格は、買取請求時における会社の純資産額(簿価)を発行済株式総数で除した価格すなわち一株(額面金五、〇〇〇円)当りの純資産額たる金一万六、二八〇円をもつて、相当と思料する。
なお、被申請会社では、昭和四一年一月二八日額面引上げのための株式併合をなし、従来の額面金五〇〇円を新に金五、〇〇〇円とし、同年四月一日新株券を発行したのであるが、申請人らは、所定の期日までに、会社に旧株券を提出せず、現在なお未提出で、これを占有しているものである。」。
記録編綴の各資料によれば、申請人ら主張の以上の事実を肯認することができる(本件申請が商法第二四五条の三第三項の期間を遵守していること記録上明らかである。)
ところで、被申請会社は、本件株式の所有権は申請人らに属せず、申請外前田惣次郎ほか一名に属すると争い、かつ株式所有権の帰属につき争いのある株式の買取価格決定申請事件を、非訟事件手続法により審理裁判することは、憲法第三二条、第八二条に違反すると主張する。しかし、株式買取価格決定事件は、株式所有権の帰属自体の確定が直接審理の対象になつているわけではなく、それは株価決定の前提であるに過ぎず、これによつて、新な権利関係が形成されるものではない。のみならず、株価の決定自体、裁判所が申請人および被申請会社との間において、監督的地位に基き、裁量的になすのである。それゆえ、株価決定事件は、形式的にも実質的にも、本質的に非訟事件であつて、訟訴事件ではないのである。したがつて、株式所有権の帰属についての判断も、実体上の法律関係について、既判力が生ずることもないわけであるから、不服ある者が別に本案訴訟で判断を求めることができるし、これにより、非訟事件での判断が否定されれば、その限度で、非訟事件でなされた株式所有権の帰属や株価に関する判断も否定される結果となる。してみれば、株式買取価格の決定は、株式所有権の帰属についての争いの有無にかかわらず、非訟事件として、非訟事件手続法に基き審理裁判することができるのであつて、公開の法廷における対審、判決により、これを行わなければならないものではないから、憲法第三二条、第八二条に違反しないというべきである。被申請会社のこの主張は理由がない。
つぎに、被申請会社は、株式の価格決定申請事件は、申立要件として、当該株式の所有権の帰属に争いのないことを要し、争いのあるときは、不適法として却下されるべきであると主張する。本来買取請求は、株主が株式の譲渡制限に反対して容れられない場合に認められる制度であるから、この趣旨からいえば、株式所有権の帰属について争いのないことが当然の前提とされているといえないでもない。しかし、株価決定事件において、必ずしもこの点を申立適否の要件と解さなければならない理由はなく、それは、前述の如く、株価決定の前提として判断されるに過ぎないし、既判力も生じないのであり、別途に民事訴訟事件で裁判を求めることができるのであるから、非訟裁判所は、株式所有権の帰属につき争いのある場合でも、申立を不適法として却下することなく、まずこの点を判断し、申請人が当該株式の所有者であることを認定した上で、株価の判断に立ち入ることができると解するを相当とする。被申請会社のこの点の主張は採用できない。
なお、本件株式については、被申請会社において、額面引上げに伴う株式併合がなされ、株主に対する旧株券の提供方の手続がなされたが、申請人らが所定の期間内に会社に旧株券を提出していないので、株券自体無効になつたといわざるを得ないが、だからといつて、株主たることに何らの消長を来たすことはないから、旧株券と引換えに新株券の交付を求めることができる関係にあり、買取請求ができることもまた論をまたない。念のため付言する。
よつて、以下に、本件株式の買取価格について判断する。
株式買取請求権は、会社の営業譲渡、合併、株式譲渡制限等会社の経営、支配に関する重要事項についての決議が多数決によつて決定された場合に、その決議に反対した少数株主に認められるものであり、右の経営、支配面で、その主張を否決された反対株主に、株主権の経済的利益を還元することによつて、これを補償せんとする制度である。そこで、買取請求は、小数株主が会社との間の当該株式による出資契約を解消して、投下資本の回収を図るものだとされ、したがつて、それはまた一面において、当該株主と会社との間の、買取請求時点における個別的な清算としての性質をも有するといえる。しかして、買取請求のなされた場合の株価決定については、商法第三四九条第一項は「譲渡制限の決議なかりせば、その有すべかりし公正な価格」と規定し、また、すでに譲渡制限のある株式の売買価格の決定に関して、商法第二〇四条の四第二項は「株式売渡請求時における会社の資産状態その他一切の事情を斟酌することを要す」と規定する。ゆえに、本件の如き新に譲渡制限のなされた株式の価格決定については、右両規定の趣旨に照らし、買取請求時点における会社の資産状態その他一切の事情を斟酌し、かつ譲渡制限の決議なかりせば、その有すべかりし公正なる価格をもつて、これを決定すべきものである。この場合上場株式にあつては、公開市場における取引価格があるから、これを一つの有力な基準とすることが通常妥当なものといえるが、本件の如き非上場かつ店頭取引もなされていない株式にあつては、流通価格がないから、別の基準を考えなければならないのである(もつとも、被申請会社の株式に関して、市場外での売買等の取引例は、過去において皆無であるところ、一件記録によれば、被申請会社には、役員および係長心得以上の役付従業員で組織する旭馬会と称する会社幹部の相互扶助等を目的とする組織があり、その会則(一五七丁、二〇〇丁)には、「会員には功労株を額面で割当て得る。」(会則第四条)、会員が退会するときは、その功労株たる所有株式を額面価格で、会員に譲らねばならない。」(会則第八条)、「会員に功労株を割当てるには、額面と同額を会費として徴収する。」(会則第一〇条第二項)等と規定され、昭和四一年七月と同年九月に退社退会する会員から他の会員に額面相当額をもつて譲渡された例が三件ある(二七一丁、二七二丁)ことが認められるが、これらは前記会則からも明らかなように、旭馬会々員に対する功労株回収についての特別の内部的規約に基くものであるから、取引の先例というに適切でなく、この譲渡価格をもつて、被申請会社株式の流通価格とすることはできない。)。
ところで、商法上株式価格の決定が問題となるのは、会社の設立、決算、合併、清算等に際して、会社資産を評価計上し、財務諸表に記載する必要がある場合と、株式買取請求のなされた場合とであるが、前者に関する株式の評価は、会社資産評価の観点から、会社の現に保有する他の会社の株式の価格の算定としてなされる関係上、当該株式の取得価格と会社の資産状態が算定基準とされるが(商法第二八五条の六)、後者すなわち株式買取請求の場合は、前述の如く、それが投下資本回収の方法であり、会社と株主との個別的な清算という性質上、自ら前者の場合と異なり、主として、株主としての経済的利益の補償という観点から、その算定基準を考慮すべきものと考える。そして、右にいわゆる株主としての経済的利益とは、主として、議決権、利益配当請求権、利息配当請求権、残余財産分配請求権、株式自由処分権等をいうのであり、これら諸権利のうち、議決権は会社の支配経営面における利益であり、利益配当請求権、利息配当請求権、残余財産分配請求権は投資面における利益であり、株式自由処分権は投機面における利益であるということができよう。しからば、株式価格は、観念上一応右の支配面、投資面および投機面での価格により形成されるということができる。そして、右の支配、投資、投機の面での価格は、会社の現有純資産、営業成績(特に収益力、配当率)および流通価格(市場価格ないし取引先例価格)に由来するものであるから、この観点に立つて、株価算定の基準となるべきものを挙げるならば、
一 一株当りの純資産額(買取請求時点での会社の純資産額を発行済み株式数で除した数額)
二 営業成績(会社の安定性、将来性、収益力、配当率等)
三 流通価格(本件では、前述の如く、市場価格も、市場外での取引価格も存しないから、類似業種の上場会社の市場価格)
となる。
右以外にも、株価に影響を及ぼすべき無形の要因があり得るが、それらは株価の算定につき、具体的な計数をもつては明示し得ない。
なお一言するに、額面額が基準たり得ないことは、明らかである。何故かならば、株式は発行の当初においては、出資証券としての性格を有し、出資すなわち資本の一部たるものであることを意味するから、そのかぎりにおいて、額面は出資された価値に該当する。しかし、会社が企業として営業を開始し、利益を得、損失を生じれば、もはや額面は出資価値を離れたものとなるからである。
さて、つぎに株価を算定するには、前掲一ないし三の算定基準に基き、一定の算定方式に従つて算定しなければならない。株価は、元来前掲三個の基準とその他の無形の要因とが融合して形成されているのであつて、そのそれぞれが独立して直ちに株価となるものではないからである。そこで、如何なる算定方式を採用すべきかが問題となる。これには、種々の方式が考えられようが、株価の算定といつても、常に一律に一定の同一算定方式に依るのは必ずしも妥当でなく、会社の規模、個人会社性や同族性の有無、上場非上場の別等の如何に応じて、これに適応した算定方式を採用するのが、合理的と思われる。当裁判所は、以上の見地から、本件につき、「国税庁長官通達直資五六直審(資)一七昭和三九年四月二五日付相続税財産評価に関する基本通達」(三〇三丁)に基く株価の算定方式を相当として、これを採用する。けだし、これによれば、非上場株式の価格は、後段において詳述する如く、評価会社を大会社、中会社、小会社のいずれかに区分するとともに、株式を同族株主保有のものと非同族株主保有のものとに区分し、業種、資産の構成、収益の状況、資本金額等の類似する上場会社の平均株価、その配当率、収益率、純資産額の各要因を基本とし、これらを評価会社のそれと比較対照して算出した価格を基礎として評価されるのであるから、右の見地に副うばかりでなく、前掲一ないし三の算定基準に則応する適切合理的な算定方式として是認できるし、被申請会社の如き流通市場を持たぬ閉鎖的な株式とはいえ、上場し得るに足る丈の実体を持ついわば上場株に準ずる程度の株式の価格の算定についてよく妥当するからである。のみならず、商法第三四九条第一項は、「譲渡制限の決議なかりせば、その有すべかりし公正な価格」と規定するから、買取価格は、本来譲渡制限の決議の影響を排除して算定される価格であるべきはずである。つまり、自由譲渡性のある場合の株価、したがつて、市場性を仮定して求められる株価をいうものと解されるが、右基本通達に基く算定方式を採用するとすれば、それが前記の如く類似上場会社の平均株価、配当率、収益率等に評価会社のそれらを比準するがゆえに、右規定の趣旨により則応し得るものというべく、この点においても、採用するに値するといえるからである(申請人らは、本件株式の買取価格は、会社の純資産額を発行済株式数で除した数額すなわち一株当りの純資産額をもつて、その価格となすべきだと主張する。本件株式が流通性を持たず、後記のように、被申請会社が同族会社であり、かつ申請人らがその同族株主であることを考慮すると、本件株式は会社財産との結合が強く、それ丈株式の会社財産に対する持分的性格が濃いといえるから、この見地からするかぎりにおいて、申請人らの主張は、一応もつともであるといえる。しかし、被申請会社は弱少な個人会社ではないし、また現に営業活動をしているのであつて、その収益力等による価格を慮外して株価を決定することは、本件においては適切でないから、申請人らの見解は採用し得ない。)。
そこで、前記基本通達に基く算定方式に従い、株価の算定をするわけであるが、これによると、取引相場のない株式の評価については、まず株主を同族株主と非同族株主に区別し、さらに、会社を大会社、中会社、小会社に区分して、評価方法を異にする。同族株主と非同族株主を区別した所以は、株主が会社の支配権を有する場合とそうでない場合とで株価に差が生ずることに根拠を置き、支配権を有する株主を同族株主とし、そうでない株主を非同族株主とし、同族株主の範囲を発行済株式数の三〇%以上の株式を保有する同族グループに属する株主と定める。また(イ)資本金一億円以上、(ロ)課税時期の直前期末における総資産額が五億円(卸売業者にあつては五〇億円)以上、(ハ)課税時期の直前期末以前一年間における取引金額が一〇億円(卸売業者にあつては五〇億円)以上のいずれかに該当する会社を大会社とする(基本通達第一七八項)。記録編綴の各資料によると、被申請会社の株式は、元代表取締役社長であつた前田惣次郎とその妻前田シヅ、右両名の子である現社長前田敬三、同じく専務取締役前田三郎、同じく常務取締役前田博、同じく前田惣之介、惣次郎夫婦の養子である申請人前田勝己、その妻であり、かつ惣次郎夫婦の長女である申請人前田維久子、申請人前田勝己夫婦の子であるその余の申請人前田久仁子、同前田武史、同前田明子、以上一一名によつてその大半を占められ、わずかにその余の一部が特定の従業員によつて功労株として保有されているにすぎないことが認められる。ゆえに、本件株式は基本通達にいわゆる同族株主の保有に係る株式であり、また被申請会社は資本金一億円以上であるから、基本通達にいう大会社に該当する。
同族株主所有にかかる大会社に関する株式の価格の算定は、類似業種比準方式をもつてし、これによると業種、資産の構成、収益の状況、資本金額等の類似する上場会社(以下類似会社という。)数社の評価時における平均株価、一株当りの平均配当金額、一株当りの平均利益金額、一株当りの平均純資産額を基本とし、これらと評価会社のそれらを比較対照して、その割合を求め、これを所定の二つの算式で計算して、二つの数値を求め、その低い方の数値をもつて、評価額とする。すなわちその算式はつぎのとおりである。
1 A×(B′/B+C′/C+D′D+3)/6
2 A×(B′/B+C′/C+D′D+1)/4
右算式中の符号と数字の意義は、
Aは、評価時における類似会社の平均株価であり、
Bは、類似会社の直前期末以前一年間の一株当りの平均配当金額、B′は評価会社のそれであり、
Cは、類似会社の直前期末以前一年間における一株当りの平均利益金額、C′は評価会社のそれであり、
Dは、類似会社の直前期末の帳簿価格による一株当りの平均純資産額であり、D′は評価会社のそれであり、
3は右のBないしD以外の例えば企業の将来性その他無形の株価構成要因を考慮し、その構成割合を、BないしDの三要因の合計と半々と見て、3としたものである。
1も右に準ずる。
(以上基本通達第一七九項、第一八〇項、第一八二項、第一八八項)
よつて、つぎに、被申請会社の株式につき、(一)一株当りの純資産額、(二)一株当りの配当金額、(三)一株当りの利益金額を検討する。
(一) 一株当りの純資産額(買取請求時点における会社の純資産額を発行済株式数で除した数額)
純資産額は、帳簿価格によるわけであるが、本件においては、実質的にも、帳簿価格を基準とするを相当とする。すなわち、会社財産には通常大なり少なりの積極消極の粉飾あるいは含み資産額の存在が考えられるが、これを発見することは実際上容易でなく、かつまた本件においては、帳簿価格と実質上の価格とに大差のないことについて当事者間に争いがないのであり、記録上、帳簿価格を特に不当とするに足る資料も見当らないからである。そこで、記録編綴の被申請会社の昭和四一年七月二〇日付貸借対照表(被申請会社は年一回七月決算。二一七丁、二九一丁)によつて、純資産額を算出する。まず右貸借対照表の貸方負債の部に記載されている各種引当金および準備金が負債として計上されるべきか、資産として計上されるべきかについて、当事者間に見解の相異があるので、この点について一言する。右計上にかかる納税引当金、貸倒準備金、貸倒引当金、退職給与引当金、価格変動準備金、買換資産特別引当金中、納税引当金、退職給与引当金はいずれも負債性引当金として負債と観念されるから、負債の部に計上されるべく(企業会計原則第三貸借対照表原則四(二)AB参照)、控除項目たること明らかである。貸倒準備金および貸倒引当金は、売掛金債権等の現実の正しい評価のためのいわゆる評価性引当金として、負債として取り扱わず、当該主勘定(売掛金勘定あるいは受取手形勘定)から直接控除する形式をとるのであるから(企業会計原則第三貸借対照表原則四(一)A参照)、貸借対照表の借方に記載されるのが本則であるが、控除項目であることに違いはない。つぎに、価格変動準備金は、商品の将来の低落に備えるもので、その性質は留保利益であり、いわゆる利益性引当金として資産の一部として計上されるべきものである。さらに、買換資産特別引当金は、右と同様に資産の一部たるべきものであり、記録編綴の被申請会社提出の「買換資産特別引当金取崩明細表」(二七三丁)によれば、右引当金はその大半が被申請会社の機械および建物の資金に当てられ、わずかの残余が雑益として振り替えられていることが認められるから、資産として計上すべきものである。なお、前記基本通達第一八八項によると、純資産額の計算に当つては、準備金および引当金に相当する金額は、負債としないものとして取り扱われているが(ただし、その後昭和四一年一二月一二日付の国税庁長官通達直資三-二〇直審(資)九「相続税財産評価上の退職給与引当金の取扱について」(二九七丁)により、退職給与引当金のみは、負債として取り扱われることになつた。)、右は税法上の特別の取扱であるから、当裁判所はこれにとらわれないで計算することとする。以上の見地に立つて、計算すると、貸借対照表借方資産の合計額金一〇億四、〇八五万三、一二五円に前記価格変動準備金三四四万三、七二五円および前記買換資産特別引当金一、四九九万二、二四一円を加算した合計金一〇億五、九二八万九、〇九一円が総資産価額であり、貸借対照表貸方の負債は、右の準備金と引当金を算入しないで計算すれば、その合計金四億二、九七四万六、三一四円となり、総資産額から総負債額を差し引けば、その残額金六億二、九五四万二、七七七円となり、これが純資産額である。そして、これを発行済株式数三万六、四〇〇株で除すと、一株(額面金五、〇〇〇円)当りの純資産額は、金一万七、二九五円となる。
(二) 一株当りの配当金額
記録編綴の被申請会社の昭和四〇年七月二〇日付および昭和四一年七月二〇日付各貸借対照表(二八九丁、二九一丁)、昭和四一年度営業報告書(二七四丁)、前田三郎審問の結果(一〇七丁)によると、被申請会社の業績は、昭和三九年度以前は好調で、高率の利益配当を見たが、昭和四〇年度以降は、国内経済事情の影響、原料の値上り、売上の減少等が主な原因で欠損となり、昭和四〇年度の欠損金一、六八八万五、四七〇円、昭和四一年度の欠損金八、三八八万〇、八八六円を計上し、両年度とも継続して欠損による無配であることが認められるから、一株当りの配当金額は零である。
(三) 一株当りの利益金額
前段に述べたと同一の理由で、一株当りの利益金額も零である。
つぎに、類似会社の株式につき、買取請求時である昭和四一年八月現在の平均市場価格、一株当りの平均配当金額、平均利益金額、平均純資産額は幾何かというのに、昭和四一年度の国税庁の類似業種比準価額計算上の業種別平均値(二八六丁)によると、類似会社(特定一個の上場会社をいうのではなく、被申請会社を、業種別の区分上、製菓製パン業に入るものとし、この業種の類似上場会社数社を指す。基本通達一八二項。)の株式一株(額面五〇円)の平均市場価額は金一四五円、一株当りの平均配当金額七円、一株当りの平均利益金額二六円、一株当りの平均純資産額一一八円であることが明らかである(厳密にいえば、国税庁選定にかかる類似会社がその業種、資産の構成、収益の状況、資本金額等の点において、果して被申請会社のそれと類似しているかどうかの当否については、なお吟味を要することかも知れないが、前記の如く、類似会社は特定一個の会社をいうのではなく、特定の数社をいい、右の各数値は、これら数社の平均値なのであるから、本件では、これをそのまま採用する。)。
よつて、被申請会社および類似会社の以上の各数値を前掲の算式に当てはめて、計算すると(額面五〇円として計算)、
前掲1の算式は、145×(0/7+0/26+173/118+3)/6 = 107.88
前掲2の算式は、145×(0/7+0/26+173/118+1)/4 = 89.39
となるところ、基本通達に従い、その低い方の数値をとることとすれば、2の算式による金八九、三九円である。
してみると、本件株式の価格は、額面五、〇〇〇円に引き直して、一株金八、九四〇円(四捨五入)と認めるを相当とし、これをもつて、本件買取価格(昭和四一年八月一二日現在)と定めることとする。
因みに、当事者双方の買取希望価格は、当初の協議の際において、一株につき、申請人らが金一万円を主張したのに対し、被申請会社が金二、五〇〇円を主張したこと記録上明らかであるところ、右双方の希望価格は、単純に額面を基準として主張されたものに過ぎず、本件買取価格決定の資料となしがたい。念のため、付記しておく。
以上の理由により、主文のとおり決定する。
(裁判官 菅本宣太郎)
(別紙)
株式目録
申請人 前田勝己 二、〇〇〇株
申請人 前田維久子 二、二一七株
申請人 前田久仁子 五〇株
申請人 前田武史 一二二株
申請人 前田明子 五〇株
(以上いずれも一株の額面金五、〇〇〇円)